『遺贈』という言葉を聞いたことがありますか?
例えば、あなたが、『息子のお嫁さん』や『お世話になった方』などに、遺言によって自分の財産をあげたいときに使う方法です。
『遺言』という単語で連想する言葉は何でしょう?
おそらく、『遺言書』とか『相続』という言葉が頭の中で浮かぶかと思います。
では、『相続』と『遺贈』はどう違うのでしょうか?
遺贈、相続とはどんなもの?
①条文ではこうなっている
まずは、定義から
見ていきましょう!
(遺贈について)
遺言者は、包括又は特定の名義で、その財産の全部又は一部を処分することができる。
民法第964条
『遺贈』は、使える相手が誰かということについて、記載がありません。
では、『相続』はどのように定義されているでしょうか。
(相続について)
相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りではない。
民法第896条
『相続』の場合は、「相続人は・・・」とあります。
つまり、『相続』は相続人に対してのみ使われるもので、『遺贈』は、誰に対しても使えるということになります。
誰でもOKということなので、『遺贈』で遺産を譲る相手は、相続人でもいいし、それ以外の人や団体でもよいのです。
お世話になった方や
寄付とかも遺贈で
できるんですね!
そのとおりです。
相続人ではない方
にも『遺贈』で財産を
残すことができます。
② 遺贈の種類には何がある?
『遺贈』には、『包括遺贈』と『特定遺贈』の2種類があります。
では、以下に
説明していきますよー!
ア)包括遺贈
『全財産をAに遺贈する』
このような遺贈のやりかたが、『包括遺贈』です。
『包括遺贈』で財産を受け取った人は、相続人と同じ権利義務を持ちます。
とはいっても、ほんとうは相続人ではないので、全く同じというわけにはいきません。
たとえば、代襲相続はありませんし、遺留分もありません。
イ)特定遺贈
『これ!』と特定できるものを遺贈するのが『特定遺贈』です。
不動産や預貯金など、特定できる財産を与える場合はこちらです。
『遺贈』だと損をする?
誰にでも使えるのなら、
遺言書には『遺贈』って
書こうかな!
ことわざでも、『大は小を兼ねる』とか言いますし、誰に対してでも使えるのなら、遺贈って書いておけば間違いないのでは・・・
なんて思う方がいるかもしれません。
でも、ちょっと待ってください。
一見便利そうな『遺贈』ですが、いいところばかりではありません。
①不動産の遺贈はめんどう
- 登録免許税が高くなる
- 不動産取得税が高くなる
- 対抗要件(登記)が必要となる
- 受遺者が単独で登記の申請ができない
不動産には『自宅』や『土地』といったものがありますが、そういったものを遺贈で受け取った場合、手続きが複雑になったり、税金が多くなったりします。
②相続税が高くなる場合がある
- 相続人のうち配偶者、親、子(代襲相続人となった孫)以外の者は、相続税が2割増しになる
ちなみに、『相続税』と明記しているとおり、遺贈は相続税として納税します。
『贈』の字が付いていますが、贈与税ではありません。
(『死因贈与』も相続税ですが、説明は割愛します。)
ではここで、ちょっと想像してみてください。
たとえば、こんな方が亡くなったとします。
『両親は2人とも他界』していて、
『相続人は兄弟のみ』である。
この方が亡くなった場合などは、相続人である『兄弟』は『被相続人の配偶者、親、子(代襲相続人となった孫)』ではないですから、相続税が2割増しになるのです。
ところで、子供や孫でも『相続税2割増し』の対象になってしまう方がいらっしゃいます。
というのは、『遺贈』を使えば、『血のつながりのない子(再婚相手の連れ子など)』だったり、『相続人ではないお孫さん』に財産を残すことができますが、
このシステムでは、『被相続人の1親等内の相続人以外は相続税が2割増し』というルールになっているからです。
この『相続税2割増し』システムは遺言書に『遺贈』と書いたときだけに限ったことではなく、『相続』と書いたときでも言えます。
『相続する』場合には相続税を納めるのですから、当然と言えば当然ですよね。
③農地の遺贈はめんどう
- 農地法3条の許可が必要
日本の農地というのは、むやみに減らしたりできないように、また有効に使えるように、しっかりと国に管理されています。
ですから、農地を相続人ではない人に譲るとなると、国から許可を受けなくてはなりません。
しかしながら、そもそも『相続人でない方に農地を譲る』ということについては、相手方のお気持ちもあるでしょうから、遺言をする前にお話をされたほうが良いかもしれませんね。
ちなみに、この『農地法に関する手続き』は行政書士の得意とするところです。
ご用命ということでしたら、しっかりとお手伝いさせていただきます。お気軽にご相談ください。
④賃貸住宅などを借りているときはめんどう
- 賃貸人の承諾が必要となる
たとえば、Aさんの名義でアパートや土地などを借りて、Bさんと2人で住んでいたとします。
(Bさんは相続人ではありません。)
Aさんが亡くなって、Bさんがそのまま住み続けたいという場合、大家さんや地主さんなど、不動産を貸してくれている人から、『承諾』をもらわなくてはなりません。
場合によっては、『承諾料』を支払うことになるかもしれません。
相続人が相続
する場合も、
同じですか?
その場合は
必要ありません。
ですが、一言
報告は必要でしょうね。
『遺贈』を使うときの遺言書の書き方の例
さいごに、遺言書での『遺贈』の書き方について見ていきます。
ご自身が遺言書を書くときのご参考になさってくださいね。
①包括遺贈の場合
▷『内縁の妻』に『全財産』を残したいとき
『内縁の妻』は、法的には配偶者ではありませんので、この方に財産を残したい場合は『遺贈』を使うことになります。
▷『孫』に『財産の一部』を残したいとき
お孫さんは、親族ではあるのですが、通常は相続人になりません。
『かわいい孫に、どうしても財産を残したい!』という方は、この遺贈という方法を使うのも、1つの案になるかと思います。
『誰が相続人になるのか?』ということについては、民法により、ルールが決まっていますので、またの機会に記事にしたいと思います。
②特定遺贈の場合
▷『お世話になった方』に『不動産』を残したいとき
記
所 在 〇〇県〇〇市〇〇一丁目
地 番 1番1
地 目 宅地
地 積 〇〇平方メートル』
不動産を遺贈で譲る場合のポイントは、2つあります。
1つは、不動産の詳細は登記事項証明書のとおりに書くことです。
もう1つは、遺言執行者を決めておくことです。
『遺言執行者』とは、遺言の内容を実現するために必要な手続きをする人のことです。
『遺贈』の場合は、親族でない方が財産を譲り受けることが多いため、手続きが滞る可能性が高くなってきます。
遺言執行者を決めておけば、比較的スムーズに手続きを進めることができます。
▷『友人』に『ペット』の世話をお願いしたいとき
動物を飼われている方は、『ペットは家族』という考え方をお持ちの方が大多数だと思いますが、残念ながら、日本の法律では、ペットは『物』という扱いになっています。
基本的に、ペットを譲り受けた場合は、相続税は発生しないようです。
しかしながら、ペットショップで購入してきたばかりの子犬や、ショーで優勝するような超優秀なペット、そのほか貴重な種類のペットだったりなんかした場合は、
『財産価値あり』と認められて、相続税を払わなければならないかもしれませんね。
血統書があれば、そのとおりに記載することもポイントです。
まとめ
『遺贈』と『相続』は、財産を譲り受ける方が範囲に違いがあります。
また、『遺贈』を使うときにはいくつか注意点があることがわかりました。
遺言書の書き方についてお困りごとがありましたら、お気軽にご相談ください。