たとえば、こんな相談があります。
わたしはもらってないのに。これって何だか不公平じゃないですか?”
お父さんが亡くなり、相続が開始されました。
遺産は1000万円。
相続人は自分と妹の2人なので、500万円ずつわけることにします。
ところが、お父さんの通帳の履歴を見てビックリ。
5年前に妹へ1000万円振り込んでいるではありませんか!
これでは、私は500万円しかもらえないのに、
妹は1500万円もらうことになるんじゃないの?
多くの人は、生前贈与と相続は関係ないと思っていると思いますが、そうではありません。
生前贈与で渡した財産は、『遺産の前渡し』の扱いになります。
もしかしたら上の事例のような財産は、『特別受益』に当たるかもしれません。
特別受益の持戻しとは?
特別受益は、相続財産に含まれるものとして計算するのですが、これを『持戻し』といいます。
民法では、特別受益の持戻しについて、このように説明しています。
共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、
被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、
第900条から第902条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。
(民法903条第1項)
相続人の中には、『生前贈与』や『遺贈』を受けている人がいるときがあります。
しかしながら、このような『生前贈与』や『遺贈』を無視して相続分を計算したのでは、これらの財産をもらっている人は『財産の2重取り』をすることになってしまいます。
これでは、不公平であるばかりか、被相続人の意思にも反すると思いませんか?
そこで、こんな場合には、計算上『特別受益』を遺産に戻すべきとしました。
特別受益になるのは、こんなもの
贈与といっても、全てが特別受益に当たるわけではありません。
では具体的に、どんな贈与が特別受益にあたるのでしょうか?
①婚姻・養子のための贈与
たとえば、こんなものがあります。
- 持参金
- 嫁入り道具
- 支度金
・・・など
一方で、結婚式の費用や結納金については、『特別受益』に当たらないとされています。
えっ、違いが
わからないんですが・・・
結婚式は『親と式場の契約』、
結納金は『親が相手方にあげる
もの』という解釈のようです。
②生計の資本としての贈与
たとえば、こんなものがあります。
- 田畑の分与
- 居住用不動産の贈与、取得費の提供
- 商売のための営業資金の贈与
・・・など
『特別受益』で代表的なのが『居住用不動産』についての贈与です。
結婚した次女にだけマンションを買ってあげるとか、その購入資金を負担するとか、そういったようなことです。
③学費などの援助
たとえば、こんなものがあります。
- 大学の学費
- 教育資金
- 留学費用
・・・など
学費や教育資金が特別受益の対象になるには、『扶養義務の範囲を超えた』金額である必要があります。
親には子供への扶養義務があり、ある程度の支出は予定されているからです。
そういえば、兄は
大学に行ったのに、
僕は高校までしか
行かせてもらえませんでした!
相続人の間で不公平が
生じる場合は、『特別受益』
にあたる可能性があります。
④『多額の』生命保険金
生命保険金については、特別受益にはあたりません。
しかし、他の相続人との間に不公平が生じるほどの大きな金額の保険金は、特別受益となる可能性があります。
いずれにせよ、『特別受益の持戻し』は、相続人の間の不公平をなくすための制度ですから、
相続人同士の財産的バランスを欠くような贈与等が、『特別受益』に当てはまります。
ただし、被相続人や相続人の金銭的状況により、該当したり当てはまらなかったりがあると思います。
だって、お金持ちの家の500万円の価値と、そうでない家庭の500万円の価値って、感じ方が違うと思いませんか?
私にとっては500万円は大金ですが、人にとっては『500万円ね、ふーん・・・あげたらいいじゃない』という人もいるでしょう。
特別受益者になるのは誰?
特別受益の持戻しは、相続人間の不公平をなくすための制度です。
ですから基本的には、特別な財産をもらった『特別受益者』になるのは相続人です。
しかし一定の場合には、相続人でない人も対象となりえます。
①推定相続人
『推定相続人』とは、被相続人が亡くなって初めて相続人となる、いわゆる「相続人になる予定の人」です。
このままいけば相続人になるだろうけど、まだ確定していないから『推定』相続人なのです。
贈与を受けた時点で推定相続人であった人は、特別受益者となります。
つまり、「この人が相続人になるな」と分かった上でもらう財産は、『特別受益』となるのです。
②贈与後に養子になった人
これは判断が分かれるところです。
だって、『子供でない人を自分の子供にする』のが養子縁組の制度ですから、養子になる前は、当然、全くの他人なわけです。
となると、養子になる前は『推定相続人』ではないので、この時点になされた贈与は『特別受益』に当たるのかどうか、迷ってしまいますね。
養子になる前にした贈与であっても、養子にするための持参金としてお金を使ったような場合は、この人は特別受益者に当たります。
③代襲者
相続には、『代襲』という制度があります。
たとえば、Aさんという人がいて、このAさんのお父さん(Aパパ)が推定相続人であったとします。
相続が始まる前にAパパが亡くなるなどして、かわりにAさんが推定相続人になりました。
これが『代襲』で、Aさんは『代襲者』という立場になります。
この場合で、Aさんがすでに代襲者になっている状態でもらった財産は、『特別受益』に当たります。
④相続人の配偶者や子が受けた贈与
相続人でない人への贈与は、『特別受益』には当たりません。
ただし、名義上はその配偶者や子に対して行ったようになっていても、実質的には相続人に贈与がなされているような場合には、『特別受益』とされる可能性があります。
まとめ
相続には、相続人間の不公平をなくすための『特別受益の持戻し』という制度があることがわかりました。
子供の結婚のための持参金や、マイホームを買うときの援助金などが『特別受益』に当てはまります。
ここまでご覧いただき、ありがとうございました。
次の機会には、具体的な持戻しの計算方法や、『持戻しの免除』についての説明ができたらと思います。